御蔵島と小笠原のハンドウイルカの比較
御蔵島のイルカ(ジャック・
T・モイヤー著・海游社¥1800)から

Bonin Explorer  MULBERRY 吉井信秋


 小笠原のハンドウイルカの行動を御蔵島のものと上記出版物を参考にして比較してみました。
ドルフィンスイムやエコツーリズムなどについても同様です。
項目の頭のページは本の該当するところです。参考になれば幸いです。



P48
  自然の保護およびマナーについて
  自然を残してお金にするということは、小笠原は特異な場所ですし、現在も非常に自然の残っている場所で、
これといった産業もないので、やはり観光産業で生きて行くには大切なことだと思います。
現在、ドルフィンスイム(以下DS)には島内の決まったルールもなく、各船に委ねられていますので、
非常に差があります。
そして、お客様の大半は水族館で見るような感じですから、野生の生き物に対する、マナーもあまりありません。
この辺は、自分も含めた運営側の努力・勉強も必要と感じています。


P77
    イルカのタイプ
 この島でも沿岸は、アダンカス型ですが、沖合いの外洋に出ると、時折トランカトス型が見られるようです。
トランカトス型は実際に見た感じとして、アダンカス型より一回りぐらい大きく、くちばしが短いので、
ずんぐりとした感じです。先日も、マッコウクジラを見に父島の南東の沖合いに出たときに出会いました。


P90
     京大  篠原君
 今年は母島で調査されていました。もう5年以上続けて調査しているので、かなり個体識別していると思います。
小笠原と御蔵島では距離が離れすぎていて個体識別されたものとの一致はないでしょう。


P94・95
  食べ物
 こちらでは、えさを取っているなと思う行動をしているところには、トビウオやムロアジが見られます。
そんな時は、動きも非常に早く、野生を感じさせる一瞬です。
ただ、小笠原ではめったに見れなくて、今年のデータでも、採餌(えさとり)はありませんでした。
早朝や外洋が多いのでは。
 それから、ソウシハギやウスバハギを食わえているのはちょくちょく見ます。
行動は御蔵と同じで、遊んでいると思われます。また、南島付近の砂地では、砂をほじくっているのをよく見かけます。


P111
   ジャンプ
 あまり多くはないので、詳しくは分かりませんが、波乗りしているとき、えさを取っているときに、
よく水面から上に上がります。
ジャンプは、ハシナガの方が顕著で、イルカ入門
(ノリス著)の考察によくマッチしていると思います。

P135  スイマーとの交渉
今年のデータではD・Sにおいてイルカとの交渉がよい状況(よく遊べる)と言うのはあまり多くないのですが、
たいていは人が入ると、群れの何頭かが、一度は寄ってくることが多い。
これは習性なのか、調べているのか。もちろん潜ってしまうこともあります。


P139
   ハシナガイルカ
 小笠原でも昼間は静かな湾(巽湾・二見湾・小港付近))にいて行動もゆっくりで、休息していると思われ、
午後から夕方になって沖に速く移動しているのが見られます。そして翌朝はまた戻っています。
バンドウに関しては、寝ていると思われる行動が日中頻繁に見れますが、
その時は、群れが比較的固まって泳ぎ、潜っている時間が長く、ゆっくりです。
目は片目を閉じていたり、薄目を開けています。もちろん昼間の観察です。
小笠原はハシナガ・バンドウイルカがどちらも頻繁に見られるので、調査・研究にはいいフィールドだと思います。


P151頭振りと接触行動
 こちらでもやはり頭を振って人に近づいてきたり、イルカ同士が接触しながら泳ぐのは、よく見うけられます。
人とイルカの接触については、まだほとんどなく、あったとしても、ちょっと当たったというぐらいの感じである。
.Sにおいては、触ろうとしないように注意しています。


P153あごならし
  私の体験したことですが、それはある親子イルカと遭遇したときのこと。
その子どもイルカは、かなり好奇心が強く、人の方に積極的に寄ってきました。
親はそんな子どもの近くをついていました。私が写真を撮ろうとかなり子どもイルカに近づいたとき、
親イルカはあごをならし、口を開け歯が見えていました。やはり、ちょっと恐怖を感じました。
完全に威嚇していたのだと思えました。


P155ペニスの勃起
 あまり詳しくは分からないが、こちらでも時折見うけられます。
人とイルカがからんでいる写真で、イルカのペニスが勃起しているのが写っているのもあります。
交尾行動は今のところ、御蔵島のようにしっかり観察された事例は少ないようです。


P161出産
 小笠原での観察では、やはり5月ごろに初めて子イルカを観察しています。
ただ、小笠原も冬場はイルカとの遭遇があまりないので、本当のところは分かりません。
交尾についてもデータを採って行く必要があると思います。


P171遊び
  やはりこちらでも、波乗りや、魚(ハギ)で遊ぶ、人とからむ、がよく見られます。
珍しい例として、岩の間に何頭かのイルカがギンガメアジをしつこく長時間追い込んでいたのが目撃されています。


P177コバンザメ
 こちらでは、コバンザメの付いたイルカはごく普通に見られます。
通常はあまり気にしてないようですが、目の近くにいるときは、顔を振って、振り払おうとしているのが見られます。
御蔵とのちがいはどこにあるのでしょうか?


P178砂へのこすりつけ
  こちらでは、南島の西側に水深10−20Mぐらいの砂地の場所が広がっていて、
そこでイルカがよくこの行動をしています。さらにくちばしを砂地に突っ込んでいるのもよく見られます。
小笠原になぜイルカがいるのかと考えると、御蔵と似たようなこともあるし、そうでないところもあるし、
なぜなんでしょうね。


P190ボート
自分の体験ですが、D.Sをしているときあるボートのエンジン音が聞こえてきたら、
ぱっと動きが速くなってしまったことがあります。水面に顔を上げると、評判のよくないボートでした。
やはりイルカは分かっているんだなと思います。
 ボートについては、小笠原では、プロペラのものと、ジェットのものと2種類ありますが、
イルカは、ジェットから出る高周波の泡が嫌いだそうですが、どうなんでしょうか?


P192親子
  ここでもまず親子の間に入って泳げることはなく、
人のいる側に親が来てその向こうに子どもがいるというスタイルになります。まれに、
手前に子どもがいることもあります。


P198イルカの攻撃
 現在までには、そういう事例はありません。しかし、世界では実際に起こっていることですし、
お客様には、ペットや見世物のイルカのように考えている人もいるので、釘をさす意味で、
こういった事例の紹介も必要かと思います。


P200人を避ける
 こちらでも、人やボートを避けるとき、長時間潜ってなかなか出てこないときがあります。
ただ行動は日によって違うので、そういう時は早めにイルカから離れるようにしています。


P207マナーについて
こちらも大体似た感じで運営はしています。一部そうでないところもありますが。
これにプラスしてD・Sの回数・人数の制限もした方がいいかなと思っています。
単純計算で、イルカの群れに、3隻ついて、15人が、3回D・Sすると135人ということになり、
イルカにとってはかなりのストレスではないでしょうか。しかも長時間になります。また連日になることもあります。
個人的にはこのぐらいが限界かなと思っています。
ただ小笠原は、御蔵島と違い、小さな島があり、海岸線が入り組んでいたりでイルカが比較的逃げ込みやすいのが、
イルカにとってはいいのでは。


P213ナチュラルハイ
お客様は、イルカと出会えると、それが一瞬の出会いであっても、かなり満足しています。
イルカに対するかなりの思い入れがあるから当然かもしれませんが。
そして、会えなかったときは、たまにありますが、がっかりしています。
こういう時に、冗談めかして、お客様の日ごろの行いがどうだのという人もいますが、
個人的にはやはり野生のイルカであり、そういう日もあるということの理解をしてもらうしかないと思っています。


P216エコツーリズム
 小笠原もエコツーリズムをしっかり浸透させていきたいと思っていますし、そうあるべき島です。
そのためには、若い世代の努力が必要です。今の村の村会議員など、土建業者がらみの人が8人中3人もいて、
どう考えても、公共事業主体の体質は変わりそうもありません。現に、下期になると、島の中は、工事現場だらけです。また、空港建設予定地などもまだ調査の段階ですが、かなりあらされてきました。
絶滅危惧されているムニンツツジなどは空港が着工されなくてもだめになってしまうのではと心配です。
先人たちが、散々やってきた種の絶滅を少しでも遅らせたり、食い止めたりすることが、
これからの小笠原にとって非常に意義があるのではないでしょうか。
青年部の事業としてイルカ・クジラ博物館の計画というのもあり、このエコツーリズムの考えを生かしたいと思います。


P218エコツアーの楽しさ
 楽しみを重視し、その中に研究・教育・保護をとりいれていく考えについても、同感です。
ただ、現状は、楽しみのみを重視している感じですので、こちらではこれからの課題となります。
現在、小笠原ホェール・ウォッチング協会が牽引的な役目をしていると思います。


P224ドルフィンガイド
  こちらでも、ダイビングインストラクター・ダイブマスターかD・S慣れした人がやっているのが実状です。
これに関しては、きっちりとしたドルフィンガイドのトレーニングシステムが必要であると感じています。
それをうまく活用すれば、逆に、トレーニング自体が営業メニューの1つにもなるかもしれません。


P228保護
 保護することによって後々まで、それから収入・利益を得るという考えは、小笠原にとってもとても重要だし、
観光資源しかないこの島ではそうすべきです。東京都にとっても、重要なことだと思います。
 小笠原では、空港建設の問題があり、村や村民の多数は、たとえある程度の自然の犠牲を伴なっても、
便利さを優先させるべきという考えです。ほんとうにそうなんでしょうか?私はどちらかというと反対です。
前述のように、小笠原でも、今までに、さんざん自然を犠牲にすることはやってきているはずなので、
これからは、少しでも、そういうことを、引き延ばしたりやめたりすることが必要です。


P242ドルフィンガイド
スタッフの中には、確かにお客様よりイルカと遊ぶことに夢中になるものがいることは事実です。
これも状況によるわけで、慣れているお客様ばかりでしたら、それでもいいですが、
慣れてない人がいるときはやはり、安全管理上も困ります。
また、業者によっては、いっしょに海に入るスタッフがいないところもあり、安全管理上問題があるとおもいます。



以上、この本を読んで、感じたことをまとめてみました。


              ‘99−11−26  吉井信秋